弁護士が教える!原状回復特約の取り決め方

法律コラム

弁護士が教える!原状回復特約の取り決め方

202281

弁護士法人琉球法律事務所

弁護士 兒玉 竜幸

 

 賃貸借で必ず問題となるものの1つに退去時の原状回復があります。「私のところは管理会社が契約書に特約で書いてくれてるから問題ない。」なんてうかうかしていられません。今回の内容は不動産管理会社の方も必見です!

まずは原則から理解しましょう。その原則とは,原状回復は,通常損耗の範囲である限り,借りた人から費用はもらえないということです。

「通常損耗」とは使用することで当然生じる損耗のことです。ちなみに,使用しなくても自然に生じる損耗を「経年劣化」といいます。

この原則は,通常損耗による価値の減少は,本来,賃料で回収するものと考えられているために認められています。

大家さんが原状回復を求めたいというとき,たいていの場合,そこには通常損耗が多く含まれています。通常損耗か否かの区別が簡単にできない場合も少なくありません。そうすると,大家さんと借りた人の間でトラブルが生じることとなります。

この原則を変えるのが特約です。契約自由の原則により,特約で通常損耗の範囲内でも原状回復の費用を借りた人が払うと定めておけば良いということになります。しかし,その特約が有効だと裁判所が認めてくれることはそう多くありません。

1つ有名な裁判例を挙げましょう。最高裁平成171216日判決です。事案を簡単に説明すると,入居説明会の参加者に対し,退去時の補修費用について,

契約書別紙の負担区分表を配布して説明をしており,その負担区分表には,補修の対象物,補修を要することとなる状況,補修方法,補修費用負担者が一覧で記載され(例えば,項目「壁」,補修が必要な状況「生活することによる変色,汚損,破損」,負担者「借主」など。),契約書にも負担区分表に従い補修費用を負担しなければならないと定められていたという事案で,裁判所は,特約の効力を否定しました。

このような裁判所の傾向を考えると,単に補修の対象や補修が必要な状況を記載するだけでは特約の効力が認められることはないといえます。

ちなみに,この裁判例では,賃借人が負担することとなる通常損耗の範囲が契約書から具体的に明記されていない場合でも,賃貸人が口頭で説明し,賃借人がその旨明確に認識して合意の内容としたと認められる場合などは,特約の効力を認めると言っています。しかし,現実に,トラブルが起きてから,契約の時に明確に説明したことを証明することは相当難しいと言わざるを得ません。

そのため,原状回復に要する費用が契約時には不明であっても,事前に原状回復費用の概算を契約書に記載しておくといった対応が,トラブル防止の現実的な対処法となります。

このように、借地借家に関するトラブル予防,紛争解決には専門的知識が不可欠です。お悩みの方は、弊所までお気軽にご相談にいらしてください。