法律コラム
2021年2月1日(月)
「勉強会への参加が労働時間にあたるのか」
弁護士法人琉球法律事務所
弁護士 久保 以明
勉強会への出席が労働基準法上の労働時間に該当するとされた例
前原鎔断事件(大阪地裁令和2年3月2日判決)
この事件は、不当解雇やパワハラ問題も争点になりましたが、ここでは時間外割増賃金の
問題の原因となった、勉強会への参加が労働時間に該当するのかという問題を取り上げます。
従業員のAさんは、業務上必要な技能が身につかず、ミスを繰り返し、作業にも時間が
かかるという問題があったようです。Aさんが所属した労働組合の提案で、Aさんの技能
向上のために月1回の勉強会が開催されるようになりました。組合側が提案した勉強会で
あったこともあり、またAさんの技能向上ということから労働時間には当たらないと会社は
主張しましたが、裁判所は、労働時間に当たると判断しました。
理由は、簡単にいうと次のようなものです。①勉強会の内容は、Aに対する指導を振り返る
というもので、Aさんが参加することが前提とされていた。②Aさんは、既に技能がなかなか身
につかないと会社に認識されていたため、もし勉強会に参加せず、技能が身につかなければ、
賃金や賞与だけでなく、Aさんは解雇されてもおかしくないような状況だった。③この会社の
就業規則には、従業員が会社から教育訓練を支持された場合には、特段の慈雨うがない限り受
講しなければならないという規定がある、というようなものです。
①②はなるほどそうかなとおも思えるのですが、これに加えて③を理由にされるとは私として
はちょっとおやっと思いますね。どの会社でもこのような規定はあってもおかしくないのです
が、そんな中でも当然、会社が求める勉強会とそうでないものがあって当然にように思われま
す。
従業員のためと思ってお世話をするようにやっていたつもりだったものが、突然、この就業規
則の規定を理由に、まるで強制参加の勉強会であったかのように言われてしまうのは、会社と
しては腑に落ちないように思われます。
ともあれ、勉強会が労働時間にあたるかどうか、という問題にたいして、裁判所がこのよう
な判断の仕方をすることもあるのだ、ということは理解しておく必要はあるように思います。