3.賃料等固定費対策について

.   賃料等固定費対策について

(1)   賃料減額又は猶予について 

 すでに締結された賃貸借契約書に基づく賃料を減額・猶予するには、原則として家主(不動産所有者)と借主の合意が必要です。なお、借地借家法321項には賃料減額請求という制度がありますが、この制度を利用しても裁判所の判断が出るまでに相当時間がかかってしまいますので、コロナウィルスの影響で迅速な対応が必要な現在の状況には十分に機能しません。

 従って、コロナウィルスの影響で店舗が営業できない、売上のめどが立たない、という理由のみで借主が一方的に賃料の減額・猶予を決めることはできません。

 このため、借主が経営不振に陥った場合、賃料の減額・猶予について家主と粘り強く交渉し、減額又は猶予を合意する必要があります。

 交渉で家主に賃料減額や猶予の譲歩を引き出すためには、コロナウィルスでいかに経営が厳しくなっていることや、仮に賃料の減額・猶予が得られなければ借主が倒産せざるを得なくなることなどを説明して、現行賃料を維持することが家主にとってもデメリットになることを理解してもらう必要があります。

 他方で、家主(不動産所有者)が経営困難に陥った借主の賃料を減額・猶予することについて、下記の通りいくつかの国の施策もなされています。

 

借主に賃料減免をした家主に対する支援施策

・国税・地方税・社会保険料の猶予措置

・固定資産税・都市計画税の減免

・テナントの賃料を免除した場合の損失の税務上の損金算入

国土交通省から各不動産関連団体への通知 

関連するURL: https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/shikinguri_list.pdf

この他にも、各種資金繰り支援に記載された各種資金繰り支援が家主(不動産所有者)にも適用される余地があります。

 家主についてもこういった施策がなされていることや資金繰り支援の活用を加味して、借主だけではなく家主も含めて社会全体でコロナウィルスによる経済停滞のダメージを受け止めて、家賃の減免について家主側も譲歩することを呼びかけるなど粘り強く交渉をしていきましょう。

 

(2)退店交渉について 

 コロナウィルスの影響で売上が急減した場合、将来に向けて回復が見込めない店舗の退店(建物賃貸借契約の中途解約)を検討する事業者もおります。すでに締結された店舗の賃貸借契約が「期間の定めのある賃貸借契約」である場合、契約書中に借主による中途解約条項がなければ期間の中途で賃貸借を解約することはできません。

 契約通りに解釈すると、借主の都合で中途解約してしまうと、期間満了までの未経過の賃料全額を家主から請求されてしまう可能性があります。

 コロナウィルスの影響で売上が急減している、といった事情があっても同様です。仮に賃貸借契約書に、コロナウィルスのような「コントロールの及ばない伝染病の蔓延」の場合に契約を解除できるという「不可抗力条項」が入っている場合、この条項を盾に契約の中途で解約を主張していくことも可能です。もっとも現行よく使われている通常の賃貸借契約雛形にはこのような「不可抗力条項」が入っていることはまれです。

 

 従って、借主の事業者様が退店を決意した場合、賃料の減額・猶予の場合と同様、賃貸借契約の中途解約と残りの未経過期間の賃料免除を求めて、家主と交渉していくことになります。家主の側からすると、テナントの退店は将来の賃料機会の喪失になりますので、賃料の減額・猶予の交渉に比べて簡単に譲歩を得ることは難しいです。しかしながら、賃料の減額・猶予の時に示した通り、現在の状況が極めて借主にとって厳しいこと、事業継続のためにどうしても退店が不可欠であること、などを説得材料として、粘り強く交渉していくことが必要となります。