法律コラム

労働法における自由意思(1)

 

                                2018年7月13日(金)

労働法における自由意思(1)

                            弁護士法人琉球法律事務所
                               弁護士 竹 下 勇 夫

なんだか難しい表題で申し訳ありません。

 お話ししようとすることは、労働契約も契約である以上、民法の規定に従って解釈されるのか、それとも労働法特有の解釈があるのか、という極めて単純なことです。しかしこの問題、裁判例や学説が錯綜していてなかなか理解できないような問題を含んでいます。最後までお読みいただければ何らかのお役にたつかもしれませんので、途中で放り投げられなければうれしく思います。

 労働契約法は、第1条の冒頭で「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意によって成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより」として、労働契約の成立及びその変更が労働者と使用者の合意によるものであることを原則としています。そしてどのような場合にこのような労働者と使用者の合意があったと認められるか、その効力が認められることになるのかという点に関しては、労働契約法は何も記載していませんので、このような場合には基本法である民法の原則に従って解釈されることになるはずです。

 では民法ではどのような場合に契約を有効に成立させるための当事者間の合意があったといえるのでしょうか。
 一般には、両当事者間の瑕疵のない意思表示が合致したときに契約は有効に成立したといわれます。意思表示(法律上の用語として「意志表示」とはいいません。)というのは、権利義務に関する人の意思を表現する行為であって、その意思の内容どおりの法的効果を生じさせるものをいいます。
 例えば、買主が売主の所有物をいくらで買いたいと申込み、売主がこれを承諾した場合に、買主の申込みの意思表示と売主の承諾の意思表示が合致して売買契約が成立し、売主はその物を買主に引き渡す義務を負うとともに代金を請求する権利を有し、買主はその物の引き渡しを受ける権利を有するとともに代金を支払う義務を負います。そして、このように意思表示が合致しているにもかかわらず売買契約の効力が影響を受けるのは、意思表示に瑕疵がある場合であるとされ、このような場合として民法は、詐欺・強迫、錯誤などの規定をおいています。このような意思表示の瑕疵がある場合を除いて、原則として意思表示が合致すれば契約は有効に成立するものとされています。

 これが民法上の原則ですが、労働契約もこれと同じように理解してもよいのか、それとも労働者と使用者の実質的な非対等性を重視して、労働契約に関してはなんらかの修正を要するのではないか、というのがこれから問題としようとする点です。
 次回から具体的に説明したいと思います。

                             以上(次回につづく)