法律コラム

有期労働契約と雇止め 2

2016年8月15日月曜日
                 琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫

 

労働解約において、契約期間の定めがないものを無期労働契約、契約期間の定めがあるものを有期労働契約と通常呼んでいます。そして、無期労働契約において契約期間中に使用者が一方的に労働契約を解消する手続きを解雇といいます。これに対して、有期労働契約において契約期間が満了した際に、契約を更新せずに終了させることを雇止めと呼んでいます。

 雇止めについては、契約期間が満了し使用者がその契約を更新しないのですから、普通に考えれば契約が満了した時点でその労働契約は終了することになるはずです。しかし、労働契約法19条は、①当該有期労働契約が反復更新されて無期労働契約と同視できるような場合、及び②有期労働契約が更新されるものとする合理的な期待が生じているような場合には、更新を拒絶することが㋑「客観的に合理的な理由を欠き」㋺「社会通念上相当であると認められない」ときには更新拒絶ができないとしています。このような規定が制定された経緯については、すでに本コラムに記載したことがあるのでそちらも参考にしてください。

 ここでは、更新を拒絶することが許されない上記㋑㋺の要件について、東京地裁平成28219日判決を参考にしながら考えてみたいと思います。上記判決は、定年後の再雇用につき、65歳に達するまで1年ごとに労働契約を更新する事案に係るものです。会社側の定年後再雇用の基準は、その判定を再雇用規程の再雇用基準審査表に基づいて実施すること、各規準項目について3段階で評価し、各項目が素点2点以上で、かつ、総合評価(素点合計)が12点以上を再雇用対象者とする旨規定されていました。この事案における労働者は定年後期間1年の有期労働契約を1回更新されましたが、2回目の更新時に、「規律遵守:配車の指示に従わなかった事由により1点」「勤務態度:自分の意にそぐわない配車指示に従わなかった事由により1点」「総合評価:11点」とされて更新を拒絶されました。この更新拒絶の有効性が争われたのが本件事案です。

 判決はまず以下のように述べて本件が上記②に該当する事案であると認定しました。すなわち、「本件再雇用規程において、定年後の再雇用契約は、上記更新基準を満たす必要はあるものの、その更新は原告の場合65歳に達する月の末日までであり得るものであり、原告が定年まで勤めあげた上で再雇用契約が締結されるに至ったことなどに照らせば、本件更新拒絶のされた当時、客観的にみて、原被告間の雇用契約が再度更新されることの合理的期待があったものと認められる。」

 次に㋑㋺については、「上記判断基準に照らせば、被告がこれらの評価項目のいずれかでも『問題あり』として素点1点の評価を下した場合、更新基準を満たさないこととなり、更新拒絶に直結するのであるから、かかる『問題あり』との評価の適否を検討するに当たっては、その評価の基礎とした事由をもって更新拒絶の客観的合理的理由に当たるか否か、更新拒絶することが社会通念上相当か否かといった観点から検討すべきである。」とした上で、「被告が本件更新拒絶の理由とする具体的出来事は、いずれも、そのような事実が認められないか、事実としては認められても、それのみでは更新拒絶を相当とするような規律遵守及び勤務態度上の問題に当るとはいえないものである。」「被告が、原告について、『規律遵守』及び『勤務態度』をいずれも『問題あり』として、更新拒絶に直結する評価をしたことは正当な評価とはいえず、いずれの点も、少なくとも『普通』(素点2点)にとどまるものと解するのが相当である。そうすると、本件更新拒絶当時の原告の再雇用(更新)基準に基づく評価は、各項目が素点2点以上で、かつ、総合評価(素点合計)が12点以上になることから、更新基準を充足するものと認められ、本件更新拒絶は不適法で無効である。」旨判断しました。

 本件は、最終的には会社自ら定めた更新基準に合致しているのであるから更新拒否は認められないとしたものですが、その前提として、定年後再雇用の場合でも「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条の趣旨から、65歳までの雇用継続は合理的な期待があるものとされること、この場合に労働契約法19条に従って更新拒絶の有効性が判断されることになることが当然のこととされているようです。

 労働契約法の適用に当たっては、定年後再雇用の場合においてそのことが特別な事情として考慮されるべきかどうかということに関して、これに否定的な判決がなされていますが、この判決もそのひとつかもしれません。

                                   以 上