事務所ブログ(2015年10月)

中欧の旅7  竹下勇夫
             (2015年10月9日)

  夜は,ハンガリー国立歌劇場でテノールのファン・ディアゴ・フローレスのリサイタル。たぶん現在最高のテノールの一人。ヨーロッパに飛び立つ直前に歌劇場のHPでフローレスの公演のことを知りました。しかしチケットを購入する暇がありませんでした。そこで,ザルツブルクのホテルのPCで改めて空席情報を確認したら,幸運なことにまだ少し空席があることを確認できました。そこですぐにチケットを購入。というわけで,愛しい地下鉄1号線に乗ってごきげんでハンガリー国立歌劇場に向かいます。昼食をしっかり食べたせいでおなかは空いていない。夕食はリサイタル終了後にしましょう。

 ところでなぜフローレスが現在最高のテノールの一人なのか。彼は五線譜の上にさらに棒2本引いたところにある音,いわゆるハイC7つだか8つだか連続してでてくるドニゼッティのオペラ「連隊の娘」の中のアリアを楽々歌います。「キング・オブ・ハイC」といわれたパヴァロッティと比べたらともかく,こんな高音を連発して歌ってくれたら聞いているほうはスカッとします。まあ,技術的にすごいから世界最高というものではないのかもしれませんが,最高というからには技術的な裏付けがあることも必要だと思います。今回のリサイタルの演目には残念ながら連隊の娘は入っていませんでしたが,同じドニゼッティの大好きな曲,オペラ「愛の妙薬」から「人知れぬ涙」が入っています。期待が高まります。

 オペラハウスは意外と小さい。採算面から考えれば大赤字公演続きなんだろうと思います。でもとても美しい歌劇場です。プラハの歌劇場は全体に白っぽくて上品な感じでしたが,こちらはヨーロッパ流の金を基調にしたとてもきらびやかな感じ。

 フローレスはいわゆるイケメン,でもずいぶんと小柄だなあ。楽器の奏者と違ってオペラ歌手は自分の体も表現能力の一部となるので,あまり小さいとそれだけ役柄が限定してしまわないかしら,などと余計なことを考えながら,2時間余りの時を過ごす。噂通り,本当に高音は美しい。声量は思っていたほどではないけれども,声の美しさ,滑らかさは何とも言えない。聴衆に乗せられて,「人知れぬ涙」を2回も歌ってくれました。こちらの聴衆は,日本の聴衆のように息を殺して歌い手と対決するというような緊張感は微塵もなく,開演前はホールの中でも平気で携帯の着信音が鳴り響くなど,ちょっとね,と思えるようなこともありましたが,本当に楽しんでいるということが伝わってきて,こういう聴衆なら歌手も気持ちよく歌えるだろうなと感心した次第。

 幸せなときを過ごして,さて,夕食は。午後9時を過ぎていて,今からレストランで食事するのもめんどくさいし,もうホテル近くのスーパーで何か出来合いのものを買って食べることにしました。

 翌日,ブダペストの空港を出発し,フランクフルトで乗り継ぎ,羽田経由で那覇まで無事戻ってきました。

                              (中欧の旅 おわり)