法律コラム

政治資金パーティーのパーティー券購入と取締役の責任
~東京地方裁判所平成27年5月28日判決~

2015年10月8日
                       琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫

 珍しい判決です。ある会社が政治資金パーティーのパーティー券を購入したところ,このパーティー券は出席の予定がないのに購入したもので,実質的には政治資金規正法の「寄附」に該当し,会社が政党及び政治資金団体以外の者に対して寄附をすることを禁じている同法211項に違反し,会社に違法な支出をさせ,損害を生じさせたとして(予備的な主張もありますが割愛します。),担当取締役は会社法4231項に基づき損害賠償責任を負うとして,株主が代表訴訟を提起した事案です。

 同法8条の2は政治資金パーティーについて,「対価を徴収して行われる催物で,当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額を当該催物を開催した者又はその者以外の者の政治活動(選挙運動を含む。これらの者が政治団体である場合には,その活動)に関し支出することとされているものをいう。」と定義しています。そして同法22条の83項は,何人も,政治資金パーティーの対価の支払をする場合において,1つの政治資金パーティーにつき,150万円を超えて,当該政治資金パーティーの対価の支払いをしてはならない,と定めています。

 一般的には,政治資金パーティーの対価の支払いは寄附とは異なり,すべての政治団体が同一の者から150万円までの支払いを受けられるものの,代金が社会通念上相当の価額を超えるような場合などには寄付とみなされることもあると理解されています。

 本件原告の株主は,上記の理解を前提として,「パーティー券は,政治資金パーティーに出席することを予定して購入するものであるから,通常,パーティー券は出席予定者の人数分だけ購入するものであり,仮に購入したパーティー券の中に出席することを予定しない分が含まれている場合には,政治資金パーティーの主催者にとっては,その分の購入代金の贈与を受けたのと同じ結果になる。そうすると,主催者が贈与を受けるのと同じ結果となることを認識しながら出席を予定しないパーティー券を購入することは,購入の時点でパーティー券購入代金の対価を得ることを放棄しているのであるから,社会通念上,実質的には,当該パーティー券の購入代金を贈与したのと同視されるべきである。そして,金銭の贈与は『寄附』に該当するから,贈与と同視されるべき出席を予定しないパーティー券の購入代金の支払いも,社会通念上実質的には寄附であると認められ,その購入代金の支払いは『寄附』に該当する。」として,担当取締役は,政治資金規正法211項に違反して会社に違法な支出をさせ,損害を生じさせたのであるから,会社法4231項(取締役の任務懈怠)に基づき,会社が被った損害を賠償する義務を負う,と主張しました。

 これに対して,裁判所は,

(1) パーティー券の購入は,政治資金規正法上,原則として「寄附」には該当しない。 

(2) 形式的にはパーティー券の購入に伴う代金の支払であっても,社会通念上,その対価的意義を著しく損なう支出であると評価される場合には,当該支払を債務の履行とみることはできないというべきであるから,当該支払は「寄附」に当たる。

(3) 本件についてみると

① 本件に係る政治資金パーティーにおいて購入されたパーティー券の数に応じた相応の準備と支出がされていなかったことをうかがわせる事情が認められない。

② 会社が購入したパーティー券の数量(10枚を超えることはなかった)と会社の経営成績及び財務状況から伺われる会社の規模(一部上場会社)を踏まえれば,会社の購入したパーティー券の枚数や金額(1回につき20万円を限度)自体が不自然とは認められない。

③ 会社はパーティー券の購入を正式な社内手続きを経て行っている。

④ 会社の政治資金パーティーへの出席状況(2~3名,5人程度までのことが多いが7~8名参加することもあった。)及び会社の規模を踏まえれば,購入枚数に見合うだけの人数の参加が想定できないような数のパーティー券を購入したとは認められず,(原告が主張するような)5枚を超えるパーティー券の購入が,社会通念上,対価性を著しく損なっていると認められるには至らないから,「寄附」に当たると認めることは出来ない。

 

として,取締役の責任を否定しました。政治資金規正法は何度も改正され極めて複雑な法律となっていますが,その中で政治資金パーティーに関する規律は比較的単純なものといえます。それでも本件のような問題があります。

本件判決は,政治資金パーティーに関する支出であれば150万円の量的制限さえ守っていれば無条件で適法といっているのではありません。きちんとした社内的手続きに従って処理されているうえ,贈与とみなされるような実態もないことなど認定した上で適法な支出であると認めたものです。この点にご留意下さい。

以 上