法律コラム

従業員の健康管理1

2009年10月29日木曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫

 

今回からシリーズで、従業員(労働者)の健康管理の問題について、法律的な側面から考えてみたいと思います。会社の側からすれば従業員の健康管理を怠れば大変なことになりますよということですし、従業員の側からすれば、会社が健康管理を怠ったため仕事が原因で病気になったり怪我をした時に会社等に対してどのような対応を要求できるかということです。
 従業員の病気やけがの問題を論ずる前提として、それらの疾病等が会社の仕事に起因する場合とそうでない場合とをきちんと分けておかないといけないということです。前者は業務上の災害・疾病であり、後者は私傷病です。この二つは分けて論じないと話がごちゃごちゃになってしまいます。
 まず、業務上の災害による疾病等について考えてみましょう。
 平たく言えば会社の仕事が原因で従業員が怪我をしたり病気になったりした場合に、従業員は法律上どのような救済を受けられるのでしょうか。結論から先に言えば、業務上の負傷、疾病、障害または死亡に関しては労災保険の災害補償給付が受けられます。
 さらにこのような場合に会社側に従業員の安全配慮、健康管理上過失があると認められるときは、会社に対して損害賠償請求をすることができます。逆にいえば、従業員の健康管理をおろそかにしていた会社は従業員に対して損害賠償の義務を負うことになる場合があるということです。
 最初に労災保険上の災害補償給付について説明しましょう。
 労災保険は、被保険者である事業主が保険料を支払い、国が保険者となる政府管掌保険であり、保険給付対象者は、被災労働者及び通勤災害被災者です。労働基準法は第8章で「災害補償」の章を設け、「業務上の」負傷等についての使用者の責任について規定しています。この労基法上の使用者の責任は、「業務上」生じたことから生じる無過失責任です。そして労災保険が給付されると使用者は労基法上の上記責任を免れるという関係にあります。
 それでは労災保険が給付されるための要件は何でしょう。労災保険法(正しくは、労働者災害補償保険法)第7条は、同法による保険給付として、第1項第1号で「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(業務災害)に関する保険給付」、第2号で「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(通勤災害)に関する保険給付」、第3号で「二次健康診断等給付」をあげています。本稿では原則として第1号の「業務災害」を扱います。
 以上のように、業務災害においては、労働者の「業務上の」負傷、疾病、障害又は死亡が要件とされています。それではここでいう「業務上の」とは何を意味しているのでしょうか。行政解釈、つまり厚生労働省の解釈ですが、業務上の負傷等と言えるためには、業務と負傷等の間に相当因果関係が存在しなければならないのであり、このことを「業務起因性」と言っています。そして業務起因性があるかないかの第一次的な判断基準が「業務遂行性」だとされています。
 それでは「業務遂行性」とは何でしょう。
 次回はこの点からさらに業務災害を考えてみましょう。

以 上