法律コラム

従業員の健康管理4ー横浜南労基署長事件上告審判例にー

2009年11月30日土曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 原 田 育 美

 

さて、今回は、「横浜南労基署長事件」上告審判例の中身について、もう少し具体的に見ていきましょう。 

 この判例は、業務起因性の判断に先立ち、まず、Xの勤務内容は、?支店長付きの運転手として業務の性質が精神的緊張を伴うもので、?勤務態様は、拘束時間が極めて長く、待機時間の存在を考慮しても、労働密度は決して低くはないとし、Xは、本件くも膜下出血を発症する前、1年以上の長期にわたり、右のような業務に従事し、とりわけ、発症前6か月間は、一日平均の時間外労働時間が7時間を上回り、かつ、一日平均の走行距離も長かったことから、Xに、慢性的な疲労をもたらした点を指摘しました。  そして、発症前月の勤務は、?一日平均の時間外労働時間が7時間を上回り、?一日平均の走行距離も直近6か月間の中で最高であったことに加え、?14日にかけての宿泊を伴う長距離、長時間の運転により体調を崩したこと、?その後、月下旬から5月初旬は、「断続的に6日間の休日があったとはいえ」、「同月1日以降発症の前日までには、勤務の終了が午後12時を過ぎた日が2日、走行距離が260キロメートルを超えた日が2日」、?特に発症の前日から当日にかけてのXの勤務は、前日の午前550分に出庫し、午後730分ころ車庫に帰った後、午後11時ころまで掛かってオイル漏れの修理をし(右修理もXの業務とみるべきである。)午前1時ころ就寝し、わずか3時間30分程度の睡眠の後、午前430分ころ起床し、午前5時の少し前に当日の業務を開始した」というもので、「前日の走行距離が76キロメートルと比較的短いことなどを考慮しても、それ自体Xの従前の業務と比較して決して負担の軽いものであったとはいえず、それまでの長期間にわたる右のような過重な業務の継続と相まって、Xにかなりの精神的、身体的負荷を与えたものとみるべきである。」として、くも膜下出血発症前のXの過酷な業務の実態を、ひとつひとつ、事実を挙げて、丁寧に認定していきました。  他方で、Xの基礎疾患に関しては、Xは、「くも膜下出血の発症の基礎となり得る疾患(脳動脈りゅう)を有していた蓋然性が高い上、くも膜下出血の危険因子として挙げられている高血圧症が進行していたが」、「同5610月及び同5710月当時はなお血圧が正常と高血圧の境界領域にあり、治療の必要のない程度のもので」、Xには、「健康に悪影響を及ぼすと認められるし好はなかった」とし、このようなXの「基礎疾患の内容、程度と、Xがくも膜下出血発症前に従事していた業務の内容、態様、遂行状況等に加えて、脳動脈りゅうの血管病変は慢性の高血圧症、動脈硬化により増悪するものと考えられており、慢性の疲労や過度のストレスの持続が慢性の高血圧症、動脈硬化の原因の一つとなり得るものであることを併せ考えれば」、「右基礎疾患が右発症当時その自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに破裂を来す程度にまで増悪していたとみることは困難というべきであり、他に確たる増悪要因を見いだせない本件においては、上告人が右発症前に従事した業務による過重な精神的、身体的負荷が上告人の右基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、右発症に至ったものとみるのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる。」と判示し、Xのくも膜下出血発症が、業務に起因するものと認めました。  次回は、この判決の影響を大きく受けた、平成13年通達(平成13.1212基発1063号)について、お話したいと思います。

以 上