法律コラム

従業員の健康管理6(平成13年通達)

2009年12月18日土曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫

 

 それでは,平成13年通達について,詳しく見ていきましょう。

 通達は,認定要件として,(1)発症直前から前日までの間において異常な出来事に遭遇したこと,(2)短期間の過重業務に就労したこと,(3)長期間の過重業務に就労したこと,をあげていますが,さらに詳しく認定要件の運用を定めています。

 第1に,疾患名を特定して,前回述べた対象疾病に該当することを確認する必要があります。

 第2に,発症時期を特定する必要があり,臨床所見,病状の経過等から症状が出現した日を特定し,その日を発症日とします。

 第3に,過重負荷の確認があります。通達は,「過重負荷」とは医学経験則に照らして,脳,心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を 超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいい,前述の(1)~(3)に区分するとし,また,「自然経過」とは,加齢,一般生活等において 生体受ける通常の要因による血管病変等の形成,進行及び増悪の経過をいう,としています。要は,普通の人なら年齢を重ね肉体が衰えていくのに伴い当然に生 じることを自然の経過といっているのです。

 そこで前述の(1)~(3)の場合についての通達の考え方をかいつまんで述べましょう。

 まず(1)異常な出来事につき,通達は,(ア)極度の緊張,興奮,恐怖,驚がく等の強度の精神的荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態, (イ)緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態,(ウ)急激で著しい作業環境に変化,をあげています。異常な出来事と認められ るか否かの判断基準として,?通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故又は災害等で,その程度が甚大であったか,?気温の上昇又は低下又は 低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったが等をあげ,このような異常な出来事が発症直から前日までの間に発生したときには,業務と発症との関連 性が認められるということになります。

 次に(2)短期間の過重業務について,通達は,「特に過重な業務」とは,日常業務に比較して特に過重な身体的,精神的負荷に生じさせたと客観的に 認められる業務をいい,日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務)に就労する上で受ける負荷の影響は,血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものをいう とし,「発症に近接した時間」を発症前おおむね1週間としたうえで,詳細な「過重負荷の有無の判断」基準(例えば,労働時間,不規則な勤務,拘束時間の長 い勤務,出張の多い業務,交代制勤務・深夜勤務,作業環境,精神的緊張を伴う勤務)を定めています。

 最後に(3)長期間の過重業務について,通達は,「疲労の蓄積」という考えを導入し,恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合 には,「疲労の蓄積」が生じ,これが血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させ,その結果,脳・心臓疾患を発症させることがあると,といっています。そ こで,発症との関連性において,業務の過重性を評価するのに,発症前の一定期間の就労実態等を考察し,発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかとい う観点から判断することになるが,その期間(発症前の長時間)とは,発症前おおむね6ヶ月間をいうとし,過重負荷の有無の判断基準については,次のように 定めています。すなわち,?発症前1ヶ月ないし6ヶ月にわたって,1ヶ月当たりおおむね45時間を超える労働外労働(1週間あたり40時間を超えて労働し た時間数)が認められない場合は,業務の発症との関連性が弱いが,おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症の関連性が徐々に強 まると評価できる,?発症前1ヶ月おおむね100時間又は発症前2ヶ月間ないし6ヶ月にわたって,1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認め られる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できる,?発症前1ヶ月間おおむね100時間又は発症前2ヶ月ないし6ヶ月にわたって,1ヶ月当たりおお むね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できる,また,休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関 連性をより強めるものであり,逆に休日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すものである,としています。

 以上のように,通達が「疲労の蓄積」という考え方を認め,詳細な判断基準を示したことから以上脳・心臓疾患に関する労災認定は,それ以前より認められやすくなりました。

 ここで注意しなければならないのは,今後述べることになると思いますが,(3)のような長時間にわたる長時間勤務を継続し発症したような場合に は,単に労災認定を受けることができることがるというだけでなく,そのような長時間労働をさせた使用者も安全配慮義務違反に問われ,民事上の損害賠償を従 業員に対して負わなければならないことがあるということです。

 しかし,その前に次回は精神疾患と業務との関連性について述べることにします。


以 上