法律コラム

従業員の健康管理(9)

2010年2月24日水曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 原 田 育 美

 

 先日,過労で脳に障害を負い意識不明の寝たきりになった元従業員に対し,使用者に,介護費46年分等を含む19400万円の損害賠償を命じた鹿児島地裁の判決が大きく報道され,衝撃を受けました。この判決の詳しい内容については,詳細が入手でき次第,こちらのコラムでご紹介します。

 さて,このコラムでは,前回,従業員の過労自殺について,使用者に対し不法行為に基づく民事損害賠償請求を認めた電通事件の判例をご紹介しました。
しかし,一般的には,冒頭で紹介した例のように,労働災害による使用者の責任は,不法行為ではなく,契約責任として,使用者の労働者に対する安全配慮義務違反を理由とする民事損害賠償請求として争われています。
この点に関し,陸上自衛隊八戸車両整備工場事件(最三小判昭50.225)は,国と公務員間の法律関係に関するものですが,使用者が労働者(従業員)に対する安全配慮義務を負うことを明言した初めての判例です。
この判例は,使用者・国の安全配慮義務につき,次のように述べています。
?   国は,公務員に対し,公務遂行のために必要となる施設や器具等の設置管理にあたって,又は,公務員が国あるいは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって,「公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下,「安全配慮義務」という。)を負っている」
?   このような「安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,その法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」であり,公務員に関しても,職務専念義務及び法令,上司の命令に従うべき義務を誠実に履行するためには,国が公務員に対し安全配慮義務を負い,その義務を尽くすことが必要不可欠である。

この判例以後,民間企業の労働契約関係についても,多数の判例で使用者の安全配慮義務違反を理由とする民事損害賠償請求が認められています。

そして,安全配慮義務の内容は,判例上,結果債務としてではなく,労働者の業務遂行が安全に行われるよう,労災事故等の発生を防止するために,使用者が支配管理する人的・物的な環境を整える義務とする立場が採られています(陸上自衛隊三三一会計隊事件,最二小判昭58.5.27等)

このように,判例では,労災事故等に対する使用者の責任を,?不法行為として認めたものと,?契約責任として認めたものがあるのですが,そもそも,「不法行為責任」と「契約責任」とは具体的にどのようなもので,いずれの法律構成をとるかによって,具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
次回は,この点にもう少し具体的に踏み込んだお話をしたいと思います。

以 上