法律コラム

従業員の健康管理(11)

2010年7月20日火曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 原 田 育 美


しばらくコラムをお休みして,ご心配をおかけしました。
今回は,労働災害が起きた場合に,使用者が負わなければならない法的責任についてお話します。
1 民事責任について
労働災害が発生した場合,使用者は,労働者に対して民事上の損害賠償責任を負うこと
  があります。使用者の民事損害賠償責任は,前回までのコラムでお話してきたように,
  (1)不法行為を根拠とする場合と,(2)労働契約上の安全配慮義務違反を根拠とする
  場合があります。
ただし,労働災害により労働者が労災保険給付を受けた場合は,その範囲で,使用者は
  労働者に対する民事損害賠償責任を免れます。

2 行政責任について
  労働災害が発生した場合において,労働安全衛生法違反や労災発生の急迫した危険がある
 場合には,使用者は,機械設備の使用停止や作業停止等の行政処分を受けたり,取引停止・
 指名停止等の行政処分を受けることがあります。

3 刑事責任について
  労働災害が発生した場合,使用者は,刑事上も,(1)業務上過失致死傷罪(刑法第211
条)や,(2)安全衛生管理法違反罪の刑事責任を問われることがあります。
(1)業務上過失致死傷罪(刑法第211条)について
使用者は,業務上労働者の生命,身体,健康に対する危険防止の注意義務を怠り,労
   働者を死傷させた場合,業務上過失致死傷罪(刑法第
211条)の刑事責任を問われるこ
   とがあります。もっとも,業務上過失致死傷罪は,直接の加害行為者以外の事業主や管
   理監督者等については,因果関係や故意・過失の有無に立証上の困難があるため,労災
   事故において,使用者に業務上過失致死傷罪が適用されて,刑事責任を追及されるケー
   スは多くはありません。

(2)労働安全衛生法違反罪について
労働安全衛生法は,事業者(使用者)に対して労働災害防止の事前予防のための安全衛
  生管理措置を罰則をもって定めており,使用者がこの措置を怠った場合には,労働災害の
  発生の有無に関わらず,同法違反の責任を問われることがあります。
特に,労働災害が発生した場合には,それを契機に,使用者の労働安全衛生法違反が発
  覚し,使用者に同法違反の刑事責任が追求されるケースが多くあります。
労働安全衛生法は,違反行為を行った行為者だけでなく,使用者(企業それ自体)にも
  罰則を課す両罰規定を採用しているため,たとえ労働災害の発生を契機に発覚した軽微な
  違反であっても,企業そのものが「犯罪者」になってしまうこととなり,企業自体のイメ
  ージや信用等に与える悪影響は非常に大きなものがあります。

4 その他の責任
その他の責任として,使用者は,業務の遂行に内在する危険性が現実 化して事故が発生
 した場合は,労働基準法及び労働者災害補償保険法上,労働者の治療と生活補償を目的とす
 る補償を行う無過失責任を負います。
また,労災事故により企業イメージそのもののや製品イメージ,社会的信用の低下等の社
 会的責任を負います。


次回は,労災事故の場合にしばしば問題となる労働安全衛生法上の使用者の責任について,もう少しお話します。

以 上