法律コラム
2011年2月17日木曜日
琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫
使用者が従業員の過労死や過労自殺による安全配慮義務違反に問われないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。答えはひとつしかありません。従業員が過労死や過労自殺をするような労働環境を作らないことです。そのためにはいかなる対策を講じる必要があるのでしょうか。
まず,当然のことながら,長時間労働の解消をはからなければなりません。すでに平成13年通達のところで詳しく述べたとおり,行政の認定基準である時間外労働時間を超える残業が認められた場合,業務の過重性が認められる可能性が非常に高く,このような場合,使用者の過失が求められることが多いのです。したがって,平成13年通達に関しては,これを単なる行政通達だとか指針にすぎないと考えるのではなくて,民事上の賠償責任を負わされる一つの目安となるものとして,認定基準を超えるような長時間労働を行わせることのないように配慮する必要があります。
次に,労働安全衛生法(安衛法)は,長時間労働者に対する医師の面接指導に関する規定を設けています。事業者は,週40時間を超える労働を積算して1カ月で100時間を超え,かつ,疲労の蓄積が認められる労働者について,その労働者の申し出を受けて,医師による面接指導を行わねばならない,としています。さらに同法は,医師の意見聴取並びに措置義務を定めています。すなわち,事業者は,面接指導を実施した労働者の健康を保持するために必要な措置について,医師の意見を聴かねばならない,としています。そしてその結果必要があるときは,当該労働者の実情を考慮して,就業場所の変更,作業の転換,労働時間の短縮,深夜業の回数の減少等の措置を講じるほか,医師の意見の衛生委員会等への報告その他の適切な措置を講じなければならないとされています。
ある意味で,このような規定は当然のことを定めたともいえますし,これを守ったからといって直ちに使用者が責任を免れることができるというものでもありませんが,少なくともこれらの規定を守らないことによって責任を問われるおそれは高いといえます。
これまでも述べてきましたように,安衛法は使用者に対して労働環境を改善するための様々な義務を課しています。使用者の安全配慮義務を考える際に無視することのできない法律と言えます。使用者は,安衛法の規定を十分に理解し,これを遵守することが求められています。
以 上