法律コラム

従業員の健康管理(15)

2011年3月7日月曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫


 今回で従業員の健康管理に関するシリーズは一応終了させていただきます。これまで主として業務災害について述べてきましたので,最終回は私傷病について述べてみたいと思います。私傷病とは,会社の業務とは無関係に発症した傷病のことであり,本来使用者が責任を負うべきものではありません。ただ私傷病に関しても,考えておかなければならない問題がありますので,簡単にこの点について述べておくことにします。

私傷病は,業務との関係のない傷病です。業務外の傷病による欠勤が一定期間に及んだとき(傷病休職,病気休職),この期間中に傷病から回復して就労が可能となれば休職は終了し復職します。しかし,就業規則に記載してある一定の期間内に傷病が回復せず,当該期間内に復職することができなければ,自然退職又は解雇となります。自然退職は期間が満了すると同時に使用者からの何らの意思表示を要せず自動的に退職となる場合であり,解雇は期間満了後に改めて使用者が解雇の意思表示をすることによって退職の効果が生ずる場合です。どちらによるかは通常就業規則の記載によります。
以上のように,一定期間内に復職できるかどうかが退職となるか雇用が継続されるかの分かれ目となりますから,どのような程度に達したときに復職の要件となる「治癒」に達したかということが重要な問題となります。古い判例は,復職の要件たる治癒とは,原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したときをいう(浦和地方裁判所昭40.12.16判決)として相当厳格に判断していましたが,最近では,従前の業務に復帰できる状態ではなく,より軽易な職務に復帰させてほしいとの申出につき,労働契約上職種を限定していない場合には,会社は現実に配置可能な業務を検討する義務がある(大阪地方裁判所平11.10.4判決)と述べて,いわゆるリハビリ勤務の必要性を指摘しています。
この点に関して,メンタルヘルスの復職に関するものですが,厚労省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を定めて,その問題点を網羅的に論じており,メンタルヘルス以外の復職に関しても参考になります。
復職の判断に際しては主治医等の診断書が必要不可欠ですが,診断書を提出してくれない場合にはどうしたらいいのでしょうか。大阪地裁経平15.4.16判決は,復職の可否の判断において,労働者は診断書の提出などによって協力する義務があるとして,これに応じない場合には解雇もやむを得ないとしています。
このように,私傷病に関しても,使用者が労働者に対して配慮しなければならない事項はないわけではないことは注意しておく必要があります。

今回でこのシリーズは終了します。次回からは異なったテーマでコラムを続けていきます。

以 上