法律コラム

優越的地位の濫用による課徴金納付命令

2011年7月21日木曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫


 公正取引委員会は,平成23622日,岡山県に本店を置くスーパーSM社に対して,独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当し同法第19条に違反する行為を行っていたとして,同法第20条第2項の規定に基づく排除措置命令及び同法第20条の6の規定に基づく課徴金納付命令を行った。課徴金額は,22216万円である。
独占禁止法に言う優越的地位の濫用とは,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商取引慣習に照らして不当に,一定の行為を行うこととされており,法はこのような行為を禁止している。以下のような類型に分類される。
 (1)継続して取引する相手方に対し,当該取引に係る商品又は役務以外 の商品又は役務を購
 入させること

 (2)継続して取引する相手方に対し,自己のために金銭,役務その他経済上の利益を提供させ
 ること

 (3)取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み,取引の相手方から取引に係る商品を受
  領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,取引の相手方に対して取引の対価の
  支払いを遅らせ,もしくはその額を減じ,その他取引の相手方に不利益となるように取引
  の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施することである。

(1)の行為の典型が押し付け販売と言われるもので,たとえば百貨店が納入業者に,納入業者
の商品と関係のない商品の購入を要請する行為である。
(2)に該当する行為としては,寄付・協賛金を要求する行為,手伝い店員の派遣要請などがあげられる。(3)に該当する行為としては,押し込み販売(買い手の注文を上回る量の購入を強要する行為),買い叩き(買い手が,代金を大幅に減額させる行為),両建預金(金融機関が融資の条件として拘束預金を要求する行為)等がある。
さて,優越的地位の濫用に該当する行為があった場合のペナルティはどうなっているか。もともと独占禁止法の違反類型に関しては,排除措置命令と言って,違反行為者等に対して独占禁止法違反行為を排除するために必要な措置を命ずることができた。そして,より悪質な違反行為に対しては,さらに課徴金を納付することもできた。しかしながら,優越的濫用を含む不公正な取引方法と呼ばれる類型に関しては,課徴金を課す旨の規定がなかった。しかし,平成21年の独占禁止法の改正により,不公正な取引方法と呼ばれる類型のうち,不当廉売,差別対価,共同の取引拒絶,再販売価格の拘束(以上はいずれもそれぞれ同一の違反行為を繰り返した場合のみ),優越的地位の濫用の各類型の違反に関しては課徴金が課されることになった。優越的地位の濫用の場合,課される課徴金は売上額の1%である。
それでは,本件の事案についてみてみよう。公正取引委員会は,次のような事実を認定した。すなわち,SM社は,遅くとも平成199月以降,取引上の地位が自社に対して劣っている納入業者(以下「特定納入業者」)に対して,次のような行為を行っていた。なお,より具体的な行為の内容については,公正取引委員会のホームページを参照のこと。
(1)新規開店等の際の従業員等の不当使用
(2)「見切り基準」(自社が独自に定めた販売基準)を経過した商品の不当な返品
(3)季節商品の販売時期の終了等に伴う商品の入れ替え・全面改装に伴う在庫整理を理由として
 割引販売を行いこととした商品の納入価格の不当な減額

(4)新規開店又は催事等の実施の際の協賛金の支払いの強要
(5)クリスマス関連商品の購入強制
以上のような事実は,優越的地位の濫用の上記三類型のいずれにも該当するとして,公正取引委員会はSM社に対し,排除措置及び課徴金の納付を命じたのであった。
本命令は,優越的地位の濫用に関しても課徴金納付を命ずることができるようになってから最初のものであり,納付を命ぜられた金額も多額に及ぶことから,注目すべきものといえる。
近時,公正取引委員会はカルテルの摘発も含めて相当活発な活動を行っている。優越的地位の濫用に関しては,契約自由の原則との関係で今後かなり悩ましい問題が出てくることが予想される。

以 上