法律コラム

有期労働契約と雇止め

2012年3月1日木曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫


 厚生労働省の労働政策審議会は、20111226日、厚生労働大臣に対して、有期労働契約のあり方について建議しました。厚生労働省は、この建議を踏まえて国会で労働契約法その他所要の改正等を提案するものと思われます。
 今回は、この建議のうちで、有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応部分について説明いたします。
 有期労働契約というのは、労働契約に期間の定めがあるものをいい、期間の定めのない通常の労働契約とは異なり、労働契約に定められた期間が満了すれば当然に労働契約の効力は消滅し、労働契約を継続するには再度労働契約を締結し直さなければならないものをいいます。このような労働契約が何回も反復連続して更新された場合に、それでも使用者は労働期間終了時に今回はもう労働契約を更新しませんといって、労働契約を終了させることができるか、というのが雇止めの問題です。
 現在の日本の労働法規には、この点に関する明確な規定がありません。労働契約法17条には期間の定めのない労働契約に関する条文はありますが、雇止めの基準についての定めはありません。他方、平成15年に厚生労働省告示として「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」が出されていますが、この基準においても、契約締結時に更新の有無、更新する・しないの判断の基準を明示すること、雇止めは期間満了の30日前までに予告しなければならないこと、労働者の請求があれば雇止めの理由を書面で交付すべきこと、契約期間について配慮しなければならないこと、等の定めがあるのみで、雇止めがいかなる場合に有効といえるかの基準については何も触れていません。
 そのため、この問題に関しては、期間の定めのない労働契約の解雇に関する法理(解雇権濫用法理)と同様に、裁判所が独自の法理(この場合は「雇止め法理」)を展開しています。その先駆となったのは昭和49年の東芝柳町事件の最高裁判決であり、5回~23回にわたって更新されたのちに雇止めにされた事案について、本件雇止めの意思表示は実質上解雇の意思表示に当たるので解雇権濫用の法理を類推適用すべきであるとして、特段の事情のない限り雇止めはできないと判示しました。同じく、昭和61年の日立メディコ事件の最高裁判決は、2か月の有期雇用を5回更新された臨時工につき、その雇用はある程度期待されたものであるから、解雇権濫用法理が類推適用されるとして、解雇無効とされるような事実関係のもとに雇止めがされたとするなら当該雇止めは無効であり、労働契約が更新されたのと同様の法律関係になる、と判示しています。
 このように、裁判例では、期間の定めのある労働契約が反復継続され、契約の更新が労働者に期待されるような場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、特段の事情(例えば、余剰人員の発生等)のない限り、雇止めは無効であり従前の労働条件で当然に労働契約は更新されるものとされています。
 そこで、実際に会社が雇止めをしようとするときは、この雇止めは有効か、それとも仮に裁判となったら雇止めは無効とされてしまうのか、その基準は一体何なのか、ということになります。そして先に述べたように、現行の労働法規にはその点に関する明確な定めはありません。裁判例も極めて多数に及び、個々の事案ごとに事情も異なることから、これを明確に整理することは困難を極めます。そんなわけで、弁護士としても、使用者や労働者から当該雇止めは有効か無効か、と問われても、判断に迷う事例があることも事実です。
 以上のような点を踏まえて、労働政策審議会が建議したものです。同審議会の提案している内容は以下のとおりです。すなわち、有期契約労働者の雇用の安定や有期労働契約の濫用の抑制のため、有期労働契約が同一の労働者と使用者の間で5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申し出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを導入することが適当であるとし、ただし、同一の労働者と使用者の間で、一定期間をおいて有期労働契約が再度締結された場合、従前の有期労働契約とは通算されないことになるクーリング期間を定めることとし、その期間は6カ月(通算対象となる有期労働契約期間が1年未満の場合はその2分の1相当期間)とすることが適当というものです。
 この提言では、5年以内に原則6カ月のクーリング期間をおいて再契約をすれば期間の定めのある労働契約として継続することが可能になりますが、そうでない限り、期間の定めのない労働契約に転換し、以後の契約の終了に関しては完全に解雇権濫用法理に服することになります。今後の国会での議論が注目されるところです。

以 上