法律コラム

高年法に基づく再雇用契約について

2013年4月23日火曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 久 保 以 明

 

1 しばらく休止していた法律コラムですが、今回から2週間に1回の割合で、当事務所弁護士持ち回りで更新していきますのでよろしくお願いいたします。

2 さて、今回は、平成25年4月1日に施行された改正高齢者雇用安定法について簡単に説明したいと思います。
 まず、改正内容は、大きくわけると以下の4点です。
 イ 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
 ロ 継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
 ハ 義務違反の企業に対する公表規定の導入
 ニ 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針の策定
 (その他(イの仕組み(労使協定)を使用できる12年間の経過措置))
今回は、これらの改正点のうち、企業として対応を考えなければいけない点としては、特にイが重要ですからこの点について述べます。

3 イ 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
(1)まず、そもそも、高齢者雇用安定法では、今回の改正前から、企業側が高齢者の雇用確保措置を行うことが義務づけられていました。
その内容は、
 a.定年の引き上げ(例:60歳65歳)
 b.継続雇用制度(言に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高齢者をその定年後も引き続いて来ようする制度)の導入
 c.定年の定めの廃止
でした。
 なお、これらのうち、bは、対象となる労働者に関する基準を労使協定で定めた時は対象となる労働者を限定できる(改正前9条2項)ものとされていました。
 改正法は、この、対象者を限定する基準を廃止するものとしたのです。つまり、これまでは、高年齢者が60歳定年後も働くことを希望するときは、会社の労使協定で定めた基準で選別することが認められていたのですが、今後は、そのような基準は使えず、基本的に希望者を65歳までは雇用する必要があるということになります。
 もっとも、定年時で、就業規則の解雇事由や退職事由に該当するような事由がある従業員については、再雇用しないとすることは可能であると言われており、また、改正法施行前に労使協定で再雇用の基準を定めていた場合には、厚生年金の報酬部分の受給開始年齢の引き上げに合わせて、その基準を適用することができるという経過措置が認められています。
(2)そこで、企業側の対応ですが、
  a.就業規則にて希望者を65歳まで雇用継続又は再雇用する旨の規定に加え、解雇事由・退
 職事
由に該当する場合に再雇用できない旨の文言を設ける。そして、前記の経過措置を利
 用する場合には,その旨も記載すること

  b.再雇用された従業員に適用される就業規則の整備をすること
 が重要であると考えます。

4 留意点等
 次に上記のような対応を執るうえで、留意すべき点をいくつか挙げたいと思います
(1)継続雇用制度を採用し,退職事由等に該当しないのに再雇用しなかった場合
 従来,労使協定の基準を満たしているのに満たしていないとして従業員を継続雇用しなかった場合に,裁判で、従業員の地位確認が認められるかについては,裁判所での判断は,分かれていました。今回の改正によっても、従業員の地位確認までが認められるようになったと断定できる訳ではありません。
 しかし、改正の趣旨は、これまで以上に高齢者の雇用確保を確実にするものですので、今後は,従業員の地位確認が認められる可能性がより高くなると推測されますし、少なくともそういった紛争が起きるリスクが高まったということはいえるでしょう。
 そこで、万が一、従業員の地位確認などが認められた場合であっても、その従業員の待遇が明確になるように、再雇用ないし継続雇用した場合の社員の処遇について,就業規則を定めておくべきであると考えられます。
(2)継続雇用(再雇用)後の労働条件(特に賃金)
 再雇用後の賃金の設定は、多くの企業が関心をもつところであると思われます。定年時の賃金に比べてあまりに低いといけないのではないか、等と言う疑問を耳にしたことがあります。
これについては、法律にどうしろということが書いてある訳ではありません。しかし、今回の改正が、厚生年金の受給年齢の引き上げに伴った措置であることにも鑑みると、定年時の給与の8割でないといけないだとか、そういった考え方はする必要はないものと考えます。法律上は、明確な下限としては、最低賃金しかないので、最低賃金を踏まえたうえで、あとは従事する仕事に応じて柔軟に決めることができると考えられます。
(3)従業員との間で賃金や労働時間の条件が合意できず,継続雇用できなかった場合,高齢者雇用安定法違反になるかという疑問もあります。
 この点については、先ほど(2)で述べたものと関係しますが、この法律は、高齢者の65歳までの雇用義務を課したものではあります。
 しかし、同法は、労働条件についてまで特定のものを義務づけたものではありませんし、事業主に従業員の希望する労働条件での継続雇用を義務付けたものでもありません。
 したがって、企業側が定めた雇用条件に従業員が納得いかず、再雇用できなかったとしても、それだけで高齢者雇用安定法違反となるわけではありません。

以 上