法律コラム

精神疾患に起因する無断欠勤

2013年6月14日金曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫

 

 日ごろからどうも態度がヘンだ、と思っていたら突然連絡もなしに会社に出てこなくなってしまった。
 さて、こんな社員がいたらどうしましょうか。無断欠勤なんだから、まず会社から本人に出てくるよう命令し、それでも出てこなかったら就業規則の無断欠勤の懲戒解雇処分に相当するとして、即解雇、ということにしてもいいのでしょうか。
 最高裁判所は、このような場合に会社としてはどうするべきかという大変重要な判断をしています。最高裁判所平成24年4月27日の判決で、日本ヒューレットパッカード事件と呼ばれています。
 この事件、精神的な不調により当初有給休暇を使用して会社を休んでいた社員が、有給休暇をすべて取得してしまったことから、その後約40日間にわたって欠勤したというものです。会社は、就業規則に照らして正当な理由のない無断欠勤だと判断し、懲戒解雇(諭旨退職)処分をしました。これに対し、当該社員が解雇は無効であるとして争ったのが本件事案です。
 第一審は、諭旨退職処分は社会的に相当であるとして社員の請求を認めませんでしたが、高等裁判所は、本件について無断欠勤として取り扱うのは相当ではなく、社員の欠勤に対して職場復帰に向けての働きかけや休職を促すこと、欠勤を長期間継続した場合は懲戒処分の対象となるなどの不利益を告知する等の対応をしていれば、社員は欠勤を継続することはなかったと認められるとして、これを懲戒事由があるとは認めず、本件諭旨解雇は無効と判断しました。
 会社側はこの高裁判決を不服として上告しましたが、最高裁は次のように述べて会社側の上告を棄却しました。

「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上告人としては、その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどしたうえで(記録によれば、上告人の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。)、その診断結果に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過をみるなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づく(筆者注:被害妄想等)ものであるから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応として適切なものとはいい難い。」

この判決は、精神的疾患が疑われる社員に対する会社側の具体的な対応方法を示している点で参考になるものと思われます。もっとも、精神的疾患が疑われるといっても、本人に病識、つまり自分が何らかに精神疾患にかかっているとの認識がなく、その結果会社が健康診断等を命じても自分は病気ではないとしてこれに応じない場合があります。精神疾患が問題とされる場合は、むしろこのような場合の方が多いのではないかと思われます。このような場合はどうしたらよいのでしょうか。
かなり難しい問題ではありますが、プライバシーにも十分に配慮したうえで、家族とも密接な連絡を取り合うなどして、職場復帰へ向けての会社側の努力を示す必要がありそうです。

以 上