法律コラム

高年法に基づく再雇用契約について

2013年7月30日火曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 久 保 以 明


1 はじめに
 今年4月1日から,改正高齢者雇用安定法が施行され,労使協定による,定年後の高齢者の再雇用(ないし継続雇用)の選定基準(再雇用基準)が廃止されることとなりましが,従前,この再雇用基準によって,再雇用を拒否された場合に,労働者の側から労働契約上の地位の確認を求める訴訟がいくつも提起されていました。下級審では,裁判で実際には高齢者が再雇用基準を満たしているとされた場合に,再雇用契約が認められるのか,という点について判断が分かれていました。
その中で,最高裁は平成24年11月29日,注目すべき判断を下しました。

2 事案の概要
 事案は,従業員(X)が,会社(Y)で,定年後も引き続き1年間の期間を定めた嘱託雇用契約により雇用されていたところ,同契約終了後の継続雇用を求めましたが,Y社に拒絶されたため,Xが,継続雇用基準を満たしているにも関わらず再雇用を許否されたとして,雇用契約上の地位にあることの確認などを求めて提訴したものです。

3 裁判所の判断
(1)一審(大阪地裁),二審(大阪高裁)とも,法律的な理論構成は異なりますが,結論
  としてXの雇用契約上の地位を認めました。
そこで,さらにY社が最高裁に上告したのが今回の判決です。最高裁は,結論として
  は,やはりXの雇用契約上の地位を認めました。
理由は,一審とも二審とも異なり,継続雇用基準を満たしている以上は,従業員に 
  は,雇用が継続されるものと期待することに合理的な理由があるとしたうえで,にもか
  かわらず,会社側で,Xの雇用が終了したものとすることは他にこれをやむを得ないも
  のと見るべき特段の事情がうかがわれない以上は,法(高齢者雇用安定法)の趣旨に鑑
  み,雇用契約が存続しているものと見るべきであるとしました。

(2)そして,再雇用後の賃金については,Y社では,継続雇用基準によって算出された各
  従業員の点数により,週30時間以内の労働時間になるか,週40時間以内の労働時間
  になるかが決まるようになっており,労働時間が決まれば,定年時の賃金から,再雇用
  後の賃金が計算できるようになっていました。そこで,裁判所は,Xについては,その
  点数から,30時間以内の労働時間になり,30時間未満の労働時間になると認めるべ
  き事情はないので,労働時間は30時間となるとし,それに基づいて算出した賃金額を
  認定しました。


4 今後の展望と対策
今回の最高裁判決により,再雇用基準を満たしているにもかかわらず再雇用を許否した場合に,再雇用契約の成立が認められるのか,という論点については,条件付きとはいえ,かなり広く認められるものであるということが示されたということができると思われます。
本事案で問題となった労使協定の再雇用基準は,前述のとおり,本年4月1日から施行された改正高齢者雇用安定法で廃止されましたが,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の引き上げに伴う経過措置がありますので,この経過措置に沿って再雇用基準を用いる限り,今後も同様の問題が起きる余地は残っています。
もっとも,経過措置の適用のない年齢については,再雇用基準が廃止されたことにより,定年後の再雇用が義務づけられる状況になりますので,今後は,本判決より容易に再雇用契約の成立が認められる可能性が高いと言えます。
やや古い判例ではありますが,最高裁は大栄交通事件(最二小判昭51.3.8労働判例245号24頁)で,定年後,再雇用する労働慣行が確立していた場合には,使用者は,特段の欠格事由がない限り再雇用する旨予め一般的に黙示の意思表示をしているとみられ,これは再雇用の申込みであるから,労働者の再雇用の意思表示は,これに対する承諾になり,直ちに再雇用契約が成立するとした東京高裁昭和50年7月24日判決の結論を是認しました。改正高齢者雇用安定法により,定年後の再雇用が義務づけられる今後の状況では,今回の事案のような理論を用いるまでもなく,大栄交通事件と同様の理由で再雇用が認められる可能性も否定できません。
したがいまして,現時点においては,使用者側としては,定年後の再雇用契約における労働条件をきちんと整備することが喫緊の課題ということができると思われます。

以 上