法律コラム

沖縄の所有者不明地問題~所有者不明地をご存知ですか?~

2015年4月14日火曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 竹 下 勇 夫


所有者不明地をご存知ですか。
沖縄では,先の大戦によって沖縄本島内の登記所の土地の登記簿が焼失してしまいました。その結果,新たに土地所有権の認定作業を行う必要が生じ,1946年以降当時の沖縄の行政機構がその作業を行ってきました。しかし戦後70年,復帰後43年を経た現在に至るまで所有者のわからない土地が数多く存在し,沖縄県のホームページで公表されている2012331日現在の所有者不明地は合計で2683筆,約808600m2にのぼっています。そのほとんどは戦前誰かが所有していたはずの土地であり,現在も相続等によって所有者が存在しているはずの土地ですが,なぜ所有者不明地とされてしまっているのでしょうか。このまま所有者が判明しない場合,いったいこれらの土地はどうなってしまうのでしょうか。何か解決すべき方策はあるのでしょうか。

 ここで,沖縄における戦後の土地所有権認定作業について,ごくかいつまんで説明しておきましょう。1946年から1950年まで,各市町村の字に土地所有権委員会が設置され,字ごとに所有権認定作業が行われましたが,これは土地の所有者が隣接地主2人の連署を添えて土地所有権申請書を委員会に提出し,これに基づいて土地の調査測量が行われました。これらをもとに,市町村長は所有権が認定できるものについては土地所有権証明書を交付し,これに基づいて土地の登記がなされました。

 そして,土地所有権申請のなされなかった土地,土地所有権証明書が受領されなかった土地等については結局登記をすることができませんでした。そこでこれらの土地については,いわゆる所有者不明地として市町村長が管理することとなりました。1951年以降,土地所有権を主張するものは巡回裁判所(現在の地方裁判所)に裁判を起こして,その判決をもって土地の登記をすることとされました。そして,所有者不明地のうち,地目が墓地,社寺用敷地,霊地又は聖地については市町村,それ以外の土地は琉球政府が管理することとなり,1954年にはその旨の登記もなされることとなりました。

1972515日,沖縄は日本に復帰しましたが,その際の復帰特別措置法によって,琉球政府の上記措置がそのまま継続されることとなり,所有者不明地は沖縄県又は市町村が管理するものとして現在に至っています。


 所有権申請がなされなかった理由はいろいろあると思います。当時申請すべきものが沖縄に居住していなかった,一家全滅してしまった,地上戦の影響で土地の様子がまったく変わってしまい自分の土地がどこにあるのかわからなくなってしまった,手続きをするにも費用を要するのであまり価値のない土地と思われるものについてはあえて申請しなかった,等々。しかしその結果,時が経過すればするほど所有者であることの証明は難しくなってしまい,正当な所有権者が所有者不明地を自らの土地として所有権保存登記をすることはますます困難になっているというのが実情です。

現在,所有者不明地とされているものを自己の所有地として保存登記をするにはどうすればよいのでしょうか。
二通りの方法があるといわれています。一つは土地所在地の市町村長の証明書等をもとに所有者不明地の管理者(沖縄県又は市町村)から所有者更正登記承認書の交付を受けて法務局で所有者更正登記及び保存登記を行う方法であり,もう一つは裁判所に管理者を被告として所有権確認訴訟を提起し,その勝訴判決をもって保存登記をする方法です。しかし前者の方法は実際には証明書や承認書を出してもらうことが困難であり,ほとんどが裁判所に訴訟を提起する方法が選択されています。しかしこの方法では,戦後70年も経過した土地の所有権が自分にあることを証明することは相当に困難ですし,時効取得を主張することがもっとも多いように思います。しかし,実際にはこの方法も以外にハードルが高く,費用もかかることから,現実には訴訟をすることをためらってしまうことも多いのです。そんなことで,なかなか所有者不明地問題の解決は,このままでは困難ではないかと考えられます。

そこで,何らかの立法的解決が必要にならざるをえません。すでに沖縄県はこれらの作業に向けて検討委員会を設置しているようですが,いずれにしても一刻も早くこの問題が解決されることを願います。
 

以 上