法律コラム
社員同士の喧嘩
2023年3月20日
弁護士 寺口 飛鳥
もし、あなたの会社の社員同士が会社でけんかをし始め、けがをしてしまった場合、会社が法的責任を負う可能性はあるでしょうか。
この点について争われた裁判例が、佃運輸事件(神戸地裁姫路支部平成23年3月11日判決)です。
この事件の事実関係は、タンクローリーの運転手Bが、就業時間の変更について差別的扱いをされたと思い込み,配車責任者Dに対し激しい剣幕で怒鳴り散らしたため,Aが止めようとしたところ、AB間で胸倉のつかみ合いになり、Bが転倒し、起き上がったBの右胸をAが突いたためBが傷害を負ったという事案です。
BはこれについてAの暴行によるけがについて会社にも責任があるとして会社を訴えました。
争点は、①安全配慮義務違反、②使用者責任のいずれかが認められるか否かでしたが、本件において裁判所は双方ともに否定し会社は責任を負わないと判断しました。
その判決文の中で①②それぞれについて以下のように判示しており会社の対策としては非常に参考になります。
① 安全配慮義務違反について
Bは,「会社が他の従業員から暴力を振るわれることがないよう配慮し,」Bの「生命・
身体を危険から保護する義務を負っていたと主張する。しかし、小中学校ではあるまい
し,」「一般的な従業員間の暴力抑止義務のようなものを負っているとは認めがたい。
もちろん,本件暴行以前から,」AとBが「顔を合わせれば暴力沙汰になっていたか,
または,そうなりそうであったという状況が存在したのであれば,会社にとって本件暴行
の発生は予見可能であり,したがって,両者の接触を避けるような人員配置を行う等の結
果回避義務があったというべきである。しかしながら,本件暴行以前にこのような状況が
存在していたと認めるに足りる証拠はないから,そもそも本件暴行の発生は会社にとって
予見可能性の範囲外であり,したがって,会社はかかる結果回避義務を負わない
ものと解するのが相当」である。
また、「安全配慮義務は,主として,物的施設および人的組織の管理という業務遂行の前
提条件の整備に関する義務であって,現に喧嘩行為が眼前で展開している場合に,これに
使用者がどう対処すべきかという問題は,そもそも安全配慮義務の範疇外であるというべ
きである(もちろん,その際,上司等のあおり行為等があれば,それ自体が不法行為とし
て問題となることは別論である)。」
要するに、社員同士の喧嘩であっても結果予見可能性及び回避義務違反がある場合は例外的に会社も責任を負うこと、安全配慮義務というのはあくまで業務遂行の前提条件の整備に留まるものであることを明示しました。
この点からすると、会社としては仲が悪く喧嘩になる可能性が高いと事前に予測できる従業員同士は遠ざけておくといったような配慮をしておけばよく、予測できないような喧嘩に関しては基本的に責任を負うことはないと考えてよいかと思います。
② 使用者責任について
理論的な部分は難しいので簡単に説明しますと、客観的に見て事業執行行為と評価できる
行為と暴行との時間的場所的な密接関連性があることに加え、暴行が生じた原因と事業執
行行為とは密接な関連性を有するものといえることまで必要であるとし、本件におけるA
の暴行は、職務との密接な関連性はないとして、使用者責任を否定しました。
裁判所のこのような考え方からすると、会社としては、喧嘩が起きないような人員配置を検討することがまず重要ではありますが、万が一喧嘩が起きてしまった場合は、「いつどこで発生したのか」「何が原因で喧嘩が起きたのか」を確認し、会社が責任を負う可能性があるか否かを的確に判断する必要があります。