定期健康診断

法律コラム
定期健康診断

2023年3月13日

弁護士 寺口 飛鳥

 

定期健康診断の受診を拒否する従業員がいる場合、会社としてはどのように対応するのが正解でしょうか。 

まず法律上の規制です。労働者安全衛生法(安衛法)3条1項は、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」と定めています。

これを受けて同66条1項、同規則44条1項は、常時使用する社員に対しいて、1年以内ごとに1回、定期的に、医師による健康診断を実施することを義務としています。その際の対象となる項目も規定されており、①既往歴及び業務歴の調査、②自覚症状及び他覚症状の有無の検査、③身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査・・・と11項目が対象とされています。

そして、このような健康診断実施義務を怠った場合は50万円以下の罰金が科されることになる(同法120条1項)のですが、従業員がこれを拒否する場合、具体的にどう対応するのが良いか、という疑問があると思います。

 まず、会社が当該従業員に対し、健康診断受診を促すことや説得するということは当然に可能です。

さらに、会社は、従業員に対して業務命令として定期健康診断を受診するように命じることもできます。これは従業員が定期健康診断を受診することは法律上の義務とされているからです(同法66条5項)。

そして、このような受診命令を出したにもかかわらずなおもこれを拒否する場合は、業務命令違反として懲戒処分の対象とすることが可能です。

しかし、従業員の中には、健康診断が法律上の義務であるとされていることを知らない方も多くいらっしゃると思いますので、あえて就業規則などに健康診断受診義務を課す内容の条項を入れておき、これに違反した場合には懲戒事由になる旨の条項も入れておくと現場ではスムーズに回るので良いと思います。

なお、会社としては健康診断を受診しない従業員に対してどこまでする必要があるのか?という点ですが、明確なルールはありません。ただ、このような従業員に対して受診命令を出さずに放置し、その結果、従業員が疾患になる、あるいは死亡するといった事情が生じた場合、会社が安全配慮義務違反を問われ、損害賠償義務を負う可能性があることは否定できません。

したがって、懲戒処分まで行うかはともかく、受診命令を出すことまではしておくのが無難かと思われます。