あなたの契約書は安全ですか? 残置物と建物の明渡し

法律コラム
あなたの契約書は安全ですか? 残置物と建物の明渡し

2022年12月6日

弁護士 兒玉 竜幸

 

 借主が建物明渡しの際に、建物内の物品を全て持って行ってくれるとは限りません。不用品を残置して退去された場合、借主の所有物であるため捨てたくても捨てられないということがあります。

そもそも、残置物がある場合に、建物を明け渡したと言えるのでしょうか。

これについては裁判例があります。内容をごく簡単に言うと、「社会通念上めぼしい物品が残っている場合は明渡しを完了したとはいえない」と判断しています(東京地裁昭和37830日判決)。つまり、常識的に見てめぼしい家具などが搬出されていれば明渡しは完了したといえます。

これが、明渡しは済んだけど残置物をどう処分すれば良いか問題が生まれるメカニズムです。

この問題を未然に防止するのが、「残置物の所有権放棄条項」です。たとえば、契約書に「借主が居室明渡後、室内に残置した一切の動産類について、借主は所有権を放棄し、貸主が処分することに一切異議を述べない」などと定めておきます。

ここで1つ注意しなければならない点があります。残置物が借主以外の第三者の所有物だった場合です。これは、一目見て分かるものではありません。上で述べた条項は、あくまで借主と貸主の間での合意にすぎませんから、あとで第三者からクレームや損害賠償請求されるリスクが残ってしまいます。

そこで、「前項の残置物は全て借主の所有であることを借主は貸主に保証し、第三者から異議があった場合は、借主の責任と負担において解決するものとし、貸主に一切迷惑をかけないことを確約する」という条項を書き加えておきます。

これで、第三者から何か言われても借主に言ってくれと言うことができるようになりますね。

なかには、「契約書の内容を理解しないまま署名押印した、真意ではないから無効だ」などという強気な(?)方もいます。

こういった強弁を封じるために、契約書には実印で押印してもらう、さらに印鑑証明書を添付してもらうという方法を取って、借主が真意であったことを裏付けることもあります。

肝心なのは、争いになった際に、適切に、主張の拠り所となるものを準備しておくことです。トラブルを未然に防止し、紛争を適切に解決するには専門家の力が不可欠です。私たちはいつでもあなたの力になります。是非お気軽にご相談にいらしてください。