遺産分割は、請求しないと10年間で時効となって出来なくなる?

法律コラム
遺産分割は、請求しないと10年間で時効となって出来なくなる?

2022年9月23日

弁護士 山下 剛

 

2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定され、同年4月21日の参議院本会議で成立しました。改正民法は2023年度に施行される予定となりました(附則第1条)。

この法改正について、「遺産分割は、請求しないと10年間で時効となってしまい、遺産分割が出来なくなるのか?」と疑問の声が寄せられています。

 

結論から言えば、遺産分割に時効はありません。

例えば、民法には、「共同相続人は、・・・・、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」と規定されています。この点は、改正法でも変わりありませんでした。

民法には、改正の前後を通じて、他に遺産分割に関して期間制限をするような条項はありませんから、遺産分割の話し合い自体は、10年後でも20年後であっても時効になることはなく、やはり「いつでも」できるのです。

 

 では、どうして遺産分割は10年たつとできなくなるのではないかという疑問が生じたのでしょうか。これは改正後の民法第904条の3に関する誤解によるものと考えられます。改正後の民法が、どのような条文となる予定なのか見てみましょう。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)

   第九百四条の三

   「 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りではない。

    一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求したとき

    二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求したとき。」

 

 確かに「相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。」と規定され、遺産分割は10年以内にしなければならないかのような書きぶりですね。

 しかし、見落としていけないのは、「前三条の規定は」という文言です。

 この「前三条」に規定されているのは、「特別受益」と「寄与分」に関する条項です。

 「特別受益」というのは、簡単に言えば、亡くなった方から、遺言等に基づいて、あるいは、生前に生活のために贈与された財産のことを意味しています。

 この「特別受益」が認められる場合には、遺産を前渡しでもらったものと考えて、遺産分割の際には、遺産に受け取った金額を加えた上で(持ち戻しといいます。)、分割方法を決めることになっています。

 また、「寄与分」というのは、亡くなった方の事業のために働いたり、財産的な援助をしたり、あるいは、療養看護をしたりしたことで、亡くなった方の財産の維持や増加に貢献したことを意味しています。

 この「寄与分」が認められる場合には、亡くなった方の遺産の一部はこの貢献によるものと考えた上で、貢献した金額も踏まえて遺産の分割方法を決めることになっています。

 

民法の改正後の遺産相続に関しては、ご家族が亡くなってから10年を経過した後の遺産分割協議では、「特別受益」や「寄与分」について考慮することが出来なくなってしまうのです。

 例えば、相続人の一部が生前にたくさんの生前贈与を受けていた場合や、相続人の中に長年亡くなった方を献身的に介護していたような方がいる場合であっても、家庭裁判所は、「特別受益」や「寄与分」の問題として考慮することが出来なくなってしまいます。

 この改正された民法は、2023年4月に施行が予定されていますが、「施行日前に相続が開始した遺産の分割についても、適用する(附則第3条)」としています。つまり、改正民法は、施行日前に発生した相続に関する遺産分割にも適用されるのです。

 

従って、今後は、「特別受益」や「寄与分」も含めて遺産分割を行うためには、亡くなってから10年以内に家庭裁判所に遺産分割の調停等を手続を申し立てることが必要になります。

 相続に関する家庭裁判所の手続を進めるには、相続に関する法律の専門的知見が必要不可欠です。特に「特別受益」や「寄与分」に関する問題についても併せて解決したいとお考えでしたら是非弁護士にご相談下さい。

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