労務問題の懸念事項〜適正な管理監督者指定とは

法律コラム

労務問題の懸念事項〜適正な管理監督者指定とは

2022年8月29日

弁護士 寺口 飛鳥

 

毎日暑い日々が続きますが,皆さんどのようにお過ごしでしょうか。

2022年8月より沖縄に転居し,弊所に参画させていただくこととなりました弁護士の寺口です。どうぞよろしくお願いいたします。

 

さて,今回は私より労働問題に関するお話をさせて頂きます。

昨今,企業の労務問題に関する懸念事項としてよく議題に上がるのが残業代請求に関する問題です。私も労働者側使用者側双方対応した経験がございますが,金額に差はあるものの,すべての事件で企業側に未払を認めるという結果となっております。    

そして,先日の労働基準法改正により,残業代請求権の消滅時効がそれまで2年であったものが3年へと延長となりました。さらに,2025年には5年に増える可能性も今のところ大きいと言われております。民法の定める債権の消滅時効が5年ですので,通常民法上の債権の中でも特に保護の必要性が高いと言われている労働債権であることから,5年に延長されることはほぼ確実かと思われます。

このような背景事情から今後ますます残業代請求に関する問題は社会的に注目されていき,事件の数も増えていくものと思われますので,企業側としては,しっかりと就業規則と賃金規程を整備し,未払いが生じないようにしておく必要があると思います。

 

では早速本題ですが,本日は管理監督者に関する問題です。

この点に関しては話は何となくご存じの方もいらっしゃるかと思います。

労働基準法412号は「監督若しくは管理の地位にある者」すなわち管理監督者に関しては,第4章 労働時間,休憩及び休日に関する規定は適用しないとしています。

要するに管理監督者に対しては,普通の社員と同じように残業代を支払う必要はないということです。

これを聞き,残業代を支払いたくないがために社員の多くを管理監督者であると指定して業務に従事させている企業もおります。極端な例でいうと,社員の70%が管理監督者という企業もある程です。

しかし,当然ながら裁判においてこのような社員が全て労基法412号の管理監督者に該当すると判断されることはまずありません。それどころか,場合によっては,全て管理監督者に該当しないと判断される可能性すらあると思われます。その理由は,同号の「管理監督者」に該当するか否かの判断基準について裁判所が3つの要素を指摘しており,そのハードルがあまりに高いからです。

この管理監督者について指摘した有名な裁判例が,いわゆる日本マクドナルド事件についての東京地判平成20年1月28日であり,同判決は,管理監督者に該当するためには,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の企業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与(基本給,役付手当)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断するものとしました。

日本マクドナルドに関しては,原告は,支店長として当該支店を事実上統括する立場であったものの,その勤務実態を見る限り,「経営者と一体的な立場」にあるとはいいがたく,その一体性の程度はそれほど強いものではなかったこと,労働時間についても裁量労働制のように自由裁量を付与されていたとは認められないこと,基本給その他諸手当等の支給面においても,当該労働者の職務内容等から見て通常想定できる時間外労働に対する手当とそん色がない金額の手当等が支払われていたとは認められないこと,から「管理監督者」には該当しないと判断されました。

その他,従業員を統括し一部採用権限があったものの,出退勤の自由がなく,職務内容がレジ,コック,掃除等全般に及んでいたレストラン店長について該当しないとされる等,否定される事例が比較的多い印象です。

もちろん肯定例もありますが,そう簡単には肯定されないケースが多く,特に仕事内容に現場の作業や雑務が含まれていたり,あるいは出退勤の自由がない等の事例ではまず認められない可能性が高いと思われます。

 私が経験した事例でも,業務のすべてについて決裁権を持ち,実質的に代表者として振舞っていた方で,出退勤に関しても自由であり,給与についても1000万円近くの比較的高額な対価を得ていた事例でも,管理監督者性が否定されました。

 しかし,管理監督者の意味を適切に解釈し,指定すべき方を指定すれば肯定されることももちろんございますので,気になった方はまず弁護士へ相談されることをお勧めいたします。