事務所ブログ(2015年9月)

中欧の旅5  竹下勇夫
                  (2015年9月)

 話が脱線してしまったので,再度ウィーン美術史美術館へ。ここは前回見たので足早に,と思ったが,ずいぶんと空いていたので結局かなりじっくりとみることができました。まずレンブラントのある部屋へ。観覧者はおらず独占状態。若い頃から老齢までの自画像が何点かあります。レンブラントは生涯に百点近い自画像を描いたそうですがどれも味わいがあって画家の人間性を感じさせてくれる傑作が多い。いずれ,放蕩息子に扮したレンブラントが新妻サスキアとともにはしゃいでいる絵をドレスデンで見てみたい。とても素敵な絵だから。

 続いてフェルメールの部屋へ。といってもあるのは「絵画芸術」1点のみ。現存するフェルメールの絵は34点だかそこらしかないというのだから,いかに美術史美術館といえども1点しかないのも仕方ないか。この「絵画芸術」,時に「画家のアトリエ」とか「絵画の寓意」という呼ばれ方もするが,なかなか謎の多い絵です。フェルメールはもともと寡作であったものの,この絵を画家が死ぬまで保有していたというのがなぞといえば謎ですね。「絵画の寓意」というタイトルもあることからわかるように,学者たちはこの絵は描かれているもの以外の何かを表しているとしているが,よくわからない。画家が背を向けてキャンバスに向かって絵を描いています。画家はフェルメールらしい。しかしフェルメールの時代にしてもすでに古風なと思われる黒の正装をしています。画家がこんな格好で絵を描くはずもない。そしてモデルの女性。頭に月桂冠をかぶり,右手にトランペット,左手に分厚い本を持っています。月桂冠をかぶっているところから,この女性は人間ではなく女神らしい。学者は手に持っているのはトゥキディデスの「戦史」だと。ならば歴史の女神クレイオーか。それでフェルメールは何を言いたかったのか。とにかくよくわからない不思議な絵。でも一度見たら絶対に忘れられない印象を残す絵。そういえば,まだフェルメールが復権して間もないころ,その評価も定まっていなかったと思われるときに,すでにプルーストは「失われたときを求めて」の登場人物のスワンやベルゴットを通じてフェルメールを高く評価し,特に「デルフトの眺望」を世界で最も美しい絵と言っています。この絵はオランダのマウリッツハイス美術館に行かなければ見られないので,いつになるかはわからないがいつかは見てみたい。とはいえ,「絵画芸術」は傑作だと思う。

 ラファエロの「牧場の聖母」。牧歌的な風景を背景に真ん中に聖母,両端にイエスと洗礼者ヨハネの構図はルーブルにある「美しき女庭師」と同じ。いや,イエスと洗礼者ヨハネの位置がこの二つの絵は逆だ。世間の評価はルーブルのほうが高いみたいですが,個人的には美術史美術館のほうが好き。色彩的に美しいし,第一3人の構図がほぼ正三角形で非常に安定しています。

 マルガリータ王女の3枚の絵。3歳,5歳,8歳。もちろんベラスケス。オーストリアのハプスブルク家への輿入れのためにスペインのハプスブルク家から持ち込まれたいわばお見合い写真のようなもの。この部屋だけは,小学生のようなちびっ子たちが床に座って先生らしき人の説明に耳を傾けています。よくヨーロッパの美術館では見かける風景ですね。先生のお話が長そうなので,すぐにこの部屋は退出。

 そして,世界一のブリューゲルのコレクション。「バベルの塔」「雪中の狩人」「子供の遊戯」等々。昔教科書で見たことのあるような絵がずらり。もっともブリューゲルの一族は画家ばかりなのでどれが何ブリューゲルの絵なのかはよくわからない。学者の評価は高いのですが,個人的には稚拙そうなというか,なんだか素人のようなタッチがどうも好きになれない。空いていたのでじっくり見てみましたが,やはりその印象は変わりません。

 ルーベンス。圧倒されます。でもその多くが宗教画や歴史画で,最低限の知識がないと何が描かれているのかよくわからないのが難点。やはりイヤフォンガイドを借りるべきだったかな。ルーブルではクレジットカードと引き換えだったし,大英博物館ではパスポートと引き換えだったので,それ以来イヤフォンガイドを借りるのはやめていたのですが。

 アルチンボルト。うーん。これは。野菜やら果物やらであらわされた肖像画は気持ち悪い。ちょっとついていけない。

 疲れたし,お昼時間なので,カフェへ。美術史美術館のカフェは大理石の床にドーム天井の吹き抜けの屋根。とっても豪華である。サンドイッチとサラダの軽い昼食。ちょうどいい時間なので,トラムに乗って集合場所のホテルへ。いよいよ最終目的地のブダペストへ。

                                    (つづく)