法律コラム

従業員の健康管理3ー横浜南労基署長事件を題材にー

2009年11月19日木曜日
                       琉球法律事務所 弁護士 原 田 育 美


 前回、「業務上」の判断の前提となる業務遂行性と業務起因性の問題について、概括的なお話をしました。
 今回は、少し具体的に、脳・心臓疾患等における業務起因性の判断について、「横浜南労基署長事件」を題材に考えてみたいと思います。

 業務上疾病、特に過労死までも含めた脳・心臓疾患においては、被災労働者の素因・基礎疾患や生活習慣等の影響も大きいため、業務起因性の有無を判断するこ とは容易ではありません。このため、法律により一定の疾病が職業病として定められ(例えば、じん肺や白ろう病など)、特定の業務に従事していた者がそのよ うな疾病を発症した場合には業務起因性が推定されます(労基法施行規則35条別表12)。しかし、脳・心臓疾患等は職業病として規定されていないため、 この推定が働かず、「その他業務に起因することの明らかな疾病」(同別表9号)に該当するか否かで業務起因性を判断します。その認定基準として一連の行政 通達が出されてきました。

 現在の平成13年通達(平成13.12.12基発1063号)に大きな影響を与えたのが、横浜南労基署長事件(最一小判平成12.7.17)でした。

  この事件では、支店長付きの運転手として自動車運転業務に従事していた第一審原告X(当時54歳)が、昭和59511日早朝、運行前点検をした後、支 店長を出迎えにいくため運転中にくも膜下出血を発症したことに関し、労災保険の休業補償の請求をしたところ、第一審被告である労基署長Yが、業務起因性を 欠くことを理由に不支給の決定をなした処分の取消しを求めて提訴しました。第一審ではXが勝訴し、Yが控訴したところ、原審(控訴審)では、逆に、業務起 因性は認められないとして一審判決を取消し、Xが上告しました。

 この上告審判例の詳しい内容は、また次回のブログでご説明致します。


以 上